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2024/11/24(Sun) 02:43:50
続きの…(以下略)
一応ここで一段落です。普通の小説なら一章終わりってところです。

一話
二話 
三話 
四話 
五話

茜色の空が濃紺に染められつつあった。この辺は夜になると昼の暑さが嘘みたいに冷える。早く見つけなければ、とロックオンは立ち並ぶ巨大な格納庫を見上げた。ここはもともとAEUの空軍基地だったところで全長は4キロメートルほど。ソレスタルビーイングのスポンサーとなっている企業が工作機械開発のためという理由で時代遅れなおかつ戦略上不要になった基地を借り上げたのだ。実際やっていることといえば監視衛星を誤魔化しての兵器開発であるが。
知らない建物の中だ、すぐに見つかるだろうと漠然と考えていたロックオンだが、少年はいまだに見つかっていない。少年兵として生き残ってきただけのことはある。午後いっぱい聞き込みをしてわかったことといえばどうやら少年が居住区から外に出て行ったらしいということ。侵入者監視システムに捕らえられていないことから基地の外に出ていないこと、それだけだ。

いくつめかの空っぽの格納庫、巨大な航空機用のものと比べて冗談みたいに小さな人間用のドアを開けたときかすかに音がしたのをロックオンは聞き逃さなかった。パチンという音と共に天井につるされたむき出しのLED電球が一斉に点灯した。ぐるりと全体を見回すと、いた。
「……探したぞ」
開けたドアから一番近いところにある角のすみっこ。少年は瞬間顔を上げロックオンの姿を認めたようだが、逃げようとはしなかった。
近づきがたい雰囲気は無視して、足早に歩いた。少年の一メートルほど前に座り込む。
「ここの周りはどこまでいっても砂漠だから、出て行ったらどうしようかと思ってた」
リノリウムの床からズボン越しに冷たさが伝わってくる。何時間ほどここに座っていたのだろうか。
ざらざらとした埃を指先でいじくっていると、少年はもう一度顔を上げた。
「殺すの?」
ロックオンは言葉を詰まらせた。子供らしからぬ目を見ていると、なんて答えたらいいのか分からなくなった。右手で癖のある髪の毛をかきむしる。
「なんでお前はそういうこと言うんだ、んなことしねーよ」
目をそらし、少年の体がほんの少しだけ動く。
「……殴る?」
「だから、何もしない。アレルヤに謝っておけばいいんじゃないか」
できる限り穏やかな声で言い聞かせると、今度は少年のほうがあきらかに困惑した表情で黙り込んだ。
様子を見ているうちにロックオンは少々腹が立ってきた。もちろん少年に対してではないが、苛立ちがつのる。顔を伏せてしまった少年をあらためて見る。半そでから覗く腕には鳥肌が立っていて、かすかに震えていた。
「こんなとこにいるから頭が回らないんだ、帰るぞ」
一方的に言い放って立ち上がると、ロックオンは上着を脱いで少年の頭にかぶせた。
長袖とはいえ薄手のジャンバーだが、ないよりはましだろう。ぎこちない動作で小さな手が片方出てきて頭にかぶったジャンバーを引き摺り下ろす。その手に握ったものを信じられないように見つめる。
「寒いからそれ着ろよ」
半ば呆然としたまま立ち上がり、のろのろと袖を通す。大きすぎる袖をひじの辺りで引っ張って手を出して自動小銃を抱えなおした。
「帰るぞ」
もう一度言って歩き出す。振り返らなくても、足音がついてきているのがはっきり分かった。

外は完全に日が暮れていた。電気を消して、IDでドアをロックした。少年がどこから忍び込んだのかは分からないが、追求するのは今ではない。
夜風が寒いがこのくらいなら歩いていれば温まるだろう。遠くに見える明かりに向かう。少年があいかわらずおとなしくついてきていることにロックオンは安堵した。同時に無言のまま歩き続けることに居心地の悪さを感じて、話題を探す。
「……自己紹介もまだだったよな」
独り言のように呟く。反応はない、がロックオンは続けた。
「ここではロックオン・ストラトスって呼ばれてる。といっても偽名だけど、本当は…」
何故だかはわからないが、ロックオンはソレスタルビーイングにいる以上必要ないはずの本名まで告げていた。言った後に気付いて焦るが手遅れだ。
「聞かなかったことにしといてくれ」
ばつが悪そうに口の中でもごもごと呟くが、無反応だった。
会話が途切れたまま歩き続けると、突然足音が途切れた。不審に思ったロックオンは振り向く。
「なんだよ、なんかあるのか?」
二メートルほど後ろで歩みを止め、少年は下を向いている。
ロックオンがしびれを切らすよりは早かった。少年は右手で銃身を掴み、ためらいがちにロックオンのほうへ自動小銃を突き出した。垂れ下がったバンドがゆれる。
「いいのか?」
驚いて問うと、少年はロックオンを見つめてかすかにうなずいた。
一歩、二歩、右手を伸ばして銃身をしっかり掴んだ。少年は手を離す。
ロックオンは無造作に肩にかける。たかが5キロほどの重さが肩に食い込んだ。
今度は少年が先に歩き出す、ロックオンが追いかけてほぼ横に並ぶ。
電灯が煌々とつけられている区画の手前だった。
「ロックオン」
唐突に名前を呼ばれ耳を疑って立ち止まると、少年も足を止めた。
「俺の名前は――」


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2007/10/26(Fri) 23:39:07
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