一話
二話
タイトルが決まりません。
公式の過去話は3クールくらいまで出てこないことを祈ってます。私はチキンなのです。
薄暗い部屋の中、カーテンの隙間から太陽の光が差し込んでいるところだけは眩しい。
何故だか妙に暑苦しい。体の右側に別の人間の体温を感じた。ロックオンは寝ぼけながらも不審に思って眠い眼をこらす。自分のものではない細い足がシーツの向こうに見えている。そのまま上にたどれば柔らかそうな癖のある黒髪が真横にあった。
弾かれるように体を起こすと、ロックオンは昨日の記憶を探った。しかし誰を連れ込んだのか全く思い出せない。
ベッドの上で頭を抱え延々と悩み続けて、ついにロックオンは戦々恐々としながらシーツの端を持ち上げる。
「……って男かよ!?」
ロックオンが上げたすっとんきょうな声のせいか、その黒髪の主はもぞもぞと動いた。くるり、と寝返りをうち、顔があらわになった。
「あ、こいつか」
寝ていれば年相応にあどけなく見える。昨日の夜中に押し付けられた子供のことを思い出して、ロックオンは胸をなでおろした。そういえばまだ名前も聞いていない。思い返してみれば説明もせず照明のリモコンを渡したのだが、部屋の電気はきちんと消えていた。そのリモコンはローテーブルの上に、貸したはずのタオルケットは床に落ちていた。
「驚かすなよな」
鼻でもつまんで起こしてやろうか、とロックオンは思った。だがソファ側の壁に立てかけてある自動小銃が目に入り、薄ら寒いものを感じてやめておくことにした。
カーテン越しの光はすでに朝の優しいものではなく、昼間の照りつけるような光に変わりつつあった。とはいえ今日は休みでいつまで寝ていようが問題ない。ソレスタルビーイングは私設武装組織などというふざけた組織である。それなりに作戦が成功するとそのたびに休暇になるという素晴らしき伝統があった。これからが仕事本番な情報部はともかく、実働部隊の気の早い連中はおそらくすでに街に繰り出しており、一週間は帰ってこないだろう。
昨日おぼろげに考えていたロックオンの予定では、とりあえず一日ぐうたら過ごし、その後に遊びに行くつもりだった。が、その予定は実行できそうにない。
どうしようと思案しているうちに、少年がロックオンの知らない言語で何かを呟いて、目を覚ました。だるそうに体を起こし、寝ぼけた顔で辺りを見回す。そのうちにロックオンの顔を直視すると急に表情がけわしくなった。見えないバリアに弾かれるようにベッドから飛び出して、床のタオルケットに脚をとられて滑って転んだ。
「……俺は何もしてないぞ、勝手にベッドに入り込んできたのはお前だからな」
すかさずロックオンがそう言うと、少年は立ち上がり、改めて周りを見回した。険のある無表情が次第に変わっていく。少年はしばらく考え込んだあと、かすかに首をひねりながら口を開いた。
「ソファで寝た」
ロックオンは脱力して天を仰いだ。しかし見えるのは埃が入り込んだ電灯だ。
ベッドから出てスリッパを履き、所在なさげに立っている少年の横をすり抜けてリモコンを手に取ると照明をつけた。その足でついでにカーテンも開けると随分明るくなった。バスルームに向かった。洗顔と歯磨きを適当に済ませ、昨日少年が着ていた服だけを洗濯機に入れてまわす。靴は捨てたほうがよさそうだった。
靴も服もどうにかしないと、そんなことを思いながらロックオンはバスルームから出る。少年はタオルケットを拾い上げて埃を払っているところだった。その小さい肩には自動小銃がかかっている。ロックオンは眩暈をおぼえたが、顔には出さずにクローゼットを開けた。
「朝飯、どうする?」
少年のタオルケットをたたんでいた手が止まる。ロックオンは服を漁りながら続けた。
「いつもは食堂で食うけど、部屋に持ってくることもできる」
完全に着替え終わってから振り返ると、少年は顔を上げた。
「ここがいい」
そっけなく言うと、下を向く。止まっていた手を動かしてクッションぐらいに折りたたんだタオルケットを無造作にソファに置いた。
「わかった、そんな格好だもんな」
服装のことを気にしているようには見えなかったが、ロックオンがそう言うと少年は小さくうなずいた。心なしか安堵しているようにみえるのは考えすぎだろうか。デスク上の財布を手にとり、部屋を突っ切ってドアを開ける。外に出ようとしたところで、何か忘れているように思って足を止めた。すぐにその答えは見つかった。
「行ってくる」
久しく使っていない言葉だ。返事は当然のように帰ってこなかった。
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